理念哲学講義録  天川貴之

真善美聖の「理念哲学」の核心を、様々な哲学的テーマに基づいて、わかりやすく講義したものです。

第2章「運命と自由意志について」

第2章「運命と自由意志について」【注解的続編】(5)

【注解的続編】(5) ⑰ 本論文では、超越的実在と人間が共に運命を創ってゆくことが述べられているが、それは、理性と自由意志を有している点で同質存在であると述べているだけである。一方では、超越的存在と人間とでは、理性の顕現度合いの差や、自由意志…

第2章「運命と自由意志について」【注解的続編】(4)

⑬ 本論文では、理性的存在者は自由意志を有していると論じられているが、理性と自由意志との関係については、まだまだ探究の余地があるといえよう。 特に、理性を源とする自由意志が、なぜ自己本性である理性に従わずに、理性と対極にある所の煩悩に惑わされ…

第2章「運命と自由意志について」【注解的続編】(3)

【注解的続編】(3) ⑧ 相対的運命論、すなわち自由意志肯定論の立場は、道徳的な哲学思想から導かれることが多い。何故なら、道徳的善を行うためには、自由意志による自律が大切であるからである。 代表的な哲学として、ストア哲学とカント哲学を挙げてお…

第2章「運命と自由意志について」【注解的続編】(2)

【注解的続編】(2) ⑤ 絶対的運命論という観点からいえば、古代ギリシャにおいては、かかる思想が優勢であったといえよう。その代表的作品の一つが、本論文の冒頭でとりあげたソフォクレスの『オイディプス王』である。 そもそも戯曲というものは、作者が…

第2章「運命と自由意志について」【注解的続編】(1)   

【注解的続編】(1) ① 本論文における哲学用語としての「超越的実在」は、宗教用語としては造物主(神)の概念にほぼ相当する。それは、大宇宙を統べる叡智であり、理性そのものであり、善そのものである存在である。 ② 人間は、理性を有している点で超越…

第2章「運命と自由意志について」第6節(2)    天川貴之

一方、本来、理性を有するにもかかわらず、世界に悪と見えしものが数多く創造されているのは、ある意味では、人間に自由意志がある証拠であるが、人間独自の罪であるといえよう。 しかし、理性的人間は、本来理性に向かうように、「かくあるべし」の本性を有…

第2章「運命と自由意志について」第6節(1)    天川貴之

ところで、人間の運命というものは、どの程度決定されているのであろうか。その際に大切になるのは、個人個人が宿している理念に、どれ程忠実に自己実現できたかということが大きいのである。 また、精進によって、理念をより一層顕現させてゆけばゆく程に、…

第2章「運命と自由意志について」第5節    天川貴之

第5節 真なる自由意志とは このように、理性的存在者には自由意志が与えられているとすると、人間の真なる自由とはどういうことなのであろうか。 人間は、如何なる時に自由を感ずることができるのであろうか。人間が真に自由を感ずる時というのは、ただ単に…

第2章「運命と自由意志について」第4節    天川貴之

第4節 相対的運命論について そこで、第二の自由意志肯定論、すなわち、相対的運命論について検討してゆきたいと思う。 自由意志否定論では、現象界の万物の必然性から、人間の精神の必然性を導いてきたが、人間の精神の存在する世界とは、現象界ではないの…

第2章「運命と自由意志について」第3節(2)  天川貴之

第3節 自由意志の存在根拠について(2) 故に、超越的実在の意志の下に、本来悪は存在しないのである。本来善のみが世界の本質なのである。しかし、人間の自由意志の迷いの結果、悪が生じているのである。 また、人間に自由意志があるからこそ、悪の結果と…

第2章「運命と自由意志について」第3節(1)

第3節 自由意志の存在根拠について(1) しかし、超越的実在の意志のみが世界に顕れているとなると、この世の中の様々な悪とみえしものも、超越的実在があえて創られているものとなる。しかし、究極の善である超越的実在の属性に悪があるというのは、どう…

第2章「運命と自由意志について」第2節

第2節 絶対的運命論について まず、第一の自由意志否定論、すなわち、絶対的運命論について検討してゆきたいと思う。 大自然、大宇宙の動きを眺めてみると、すべては法則によって統べられ、必然的な因果関係の中に動いているといえるのである。その背後には…

第2章「運命と自由意志について」第1節

第1節 人間の運命について 運命と自由意志について論じてゆきたい。 運命の問題というものは、古今東西を通して、人間が探究してきた重要な課題である。従って、人生の真理を追究していくにあたって、どうしても避けてはならない問題であるように思うのであ…