理念哲学講義録  天川貴之

真善美聖の「理念哲学」の核心を、様々な哲学的テーマに基づいて、わかりやすく講義したものです。

第2章「運命と自由意志について」第1節

   第1節 人間の運命について 

 

 運命と自由意志について論じてゆきたい。

 運命の問題というものは、古今東西を通して、人間が探究してきた重要な課題である。従って、人生の真理を追究していくにあたって、どうしても避けてはならない問題であるように思うのである。

 古代ギリシャの悲劇の中で、『オイディプス王』というものがある。これは、オイディプス王の人生を予言者が予言をなし、オイディプス王は、自由意志のもとに自らの人生を送り続けていくようにみえて、実は予言通りの人生になってしまったという悲劇を書いたものがあるが、このように、古来においては、運命というものは実在するものとして考えられていることが多かったのである。

 それでは、運命というものを論じてゆきたいと思う。

 まず、運命があるということは、何らかの人為を越えた超越的実在というものを想定せざるを得ないのである。この超越的実在と、人間の自由意志とが、如何なる関係にあるかということが、運命を考える上で最大の論点となるのである。

 それには、大きく分けて二通りの考え方があるといえる。

 第一は、絶対的運命論である。人間には自由意志が無いという考え方であって、その背後に、絶対なる超越的実在の意志があるというものである。

 第二は、相対的運命論というものである。人間には、あくまでも自由意志があるという考え方であって、それは、その背後にある超越的実在の意志と両立し得るというものである。

 

(つづく)