理念哲学講義録  天川貴之

真善美聖の「理念哲学」の核心を、様々な哲学的テーマに基づいて、わかりやすく講義したものです。

第2章「運命と自由意志について」第4節    天川貴之

 第4節  相対的運命論について

 

 そこで、第二の自由意志肯定論、すなわち、相対的運命論について検討してゆきたいと思う。

 自由意志否定論では、現象界の万物の必然性から、人間の精神の必然性を導いてきたが、人間の精神の存在する世界とは、現象界ではないのである。

 人間の精神の中核は、理性であるが、理性的存在としての人間は、理念界、叡智界といわれる世界にあり、理性の自由という性質の中にあるといえるのである。

 現象界の因果律と理念界の自由という、この両方に足場をもつという人間観は、カントのみならず、人間が感性界とイデア界に存在するといわれたプラトンも同趣旨であり、古今を通した一つの大真理であろうと思う。

 では、先程、理念界においては、理性の本質は自由であると述べたが、何故、理性が自由であるということができるのであろうか。それは、理性こそが超越的実在の本質そのものであるからである。

 すなわち、超越的実在は、第一の原因となる自由意志を有し、そこから新たな創造が始まるといえるが、理性もまた同じく、第一原因となる自由意志を有し、そこから新たな創造を始めることができるのである。

 そうすると、人間の最高の尊厳の根拠は、超越的実在の分身であり、同じ理性という本質を有していること、そして、自由意志と自由創造力を有していることにあるといえるのである。

 

(つづく)