理念哲学講義録  天川貴之

真善美聖の「理念哲学」の核心を、様々な哲学的テーマに基づいて、わかりやすく講義したものです。

第3章「快楽と幸福について」第1節          天川貴之

 第1節  快楽の追求について

  快楽と幸福について述べてゆきたい。

 快楽をもって人生の幸福となしている人々は多い。しかし、快楽は本当に人間を幸福に導くのであろうか。

 快楽として人々が思い浮かべるものは、例えば、食欲であるとか、性欲であるとか、五官の欲求、すなわち本能的欲求を満たすことが中心となろう。そして、その周囲に、よき家に住みたいだとか、よき衣装をまといたいだとか、さらには、名声欲や地位欲や金銭欲などの欲求がならんでゆく。

 確かに、本能的欲求を満たすことは、自然の欲求ではある。しかし、人間は、自然に与えられる快楽に満足せず、その方にとって過度の快楽を追求しすぎる傾向があるのである。

 自由意志の充分に与えられていない生物たちの本能的欲求と、人間のあくなき本能的欲求とをくらべてみると、その差があまりにも大きいのに気づくのである。自然界の欲求に忠実な生物たちは、ささやかな欲求が満たされることで満足しているけれども、人間は、自由意志を過度に濫用して、足ることを知らぬ欲求を追求しているといえる。

 特に、文明の興隆した時代地域においては、その傾向が著しい。都においては、なんと不自然な美食がおこなわれ、なんと淫らな愛欲が横行し、なんと不自然な大邸宅が建ち並び、なんと不自然な程、名声欲、地位欲、金銭欲で満ちた人々がうごめいていることであろうか。こうした人々の多くは、快楽を貪ることで幸福になっていると思っている。

 

 (つづく)