第3章「快楽と幸福について」〔注解的続編〕(1) 天川貴之
〔注解的続編〕(1)
① 快楽にも様々なものがあるが、本文では、主として食欲、性欲、物欲、名声欲、地位欲、金銭欲等が挙げられている。
これらの欲は、ただ単に断てばよいというものではなくて、理性に基づいて、妥当な方向に統御してゆくことが、真のストイシズムであると考える。以下において、欲を統御する理性的智慧の具体例を挙げてみたいと思う。
② 食欲についてであるが、自然界の動物は、量においては適量で満足し、自然の摂理によって、自己に与えられたものをほぼそのまま自然な形で食している。人間においては、まず、その量において、適量で満足するのが、過食や少食に偏らない健全なあり方であるといえよう。
ただし、人間には、動物と違って、自然物を多様な形で料理する自由が与えられている。ここから、過度な美食が派生するのであるが、本来の料理をする喜びとそれを味わう喜び自体は、基本的に善であると思う。
しかし、料理の道も深遠であり、料理の贅沢とは、追求すればする程、エスカレートして止まらない所があるのである。そこで、理性に目覚めず、本能的快楽のみを求めようとする人々は、あくなき食欲の追求の世界に没頭してしまいがちである。これも、大きな地上的執着であり、天上的な理性を眠らせたまま、大切な「心」の探究を忘却してしまうことになるのである。
故に、食欲も、足ることを知り、既に与えられている食事に感謝をして食することをもって旨とし、それで余った時間と金銭とエネルギーを「心」の探究に使い、理性的幸福の追求に使ってゆくことこそ、ストイックな生き方であるといえよう。
(つづく)