理念哲学講義録  天川貴之

真善美聖の「理念哲学」の核心を、様々な哲学的テーマに基づいて、わかりやすく講義したものです。

第3章「快楽と幸福について」〔注解的続編〕(5)

 〔注解的続編〕(5)

 

 地位欲についてであるが、地上における地位は、必ずしも、心の高下や理性の顕現度合いに応じているとは限らない。

 故に、たとえ首相の地位にある方であっても、その心が低く、理性を充分に顕現しておられなかったとすれば、心を常によく磨き、理性の眼をもった一家庭の御婦人よりも低い地位にあるといえるのである。

 故に、まず何よりも、理性の地位をこそ高めてゆくことに心を集中させてゆくべきである。

 そして、地位とは、自分の器に応じて自然に与えられるものだと思って、自らの器を磨くことに専念してゆくべきである。

 そして、ある一定の地位を得たならば、その地位にふさわしい徳をもって、人々に愛と智慧を与えてさしあげることが大切である。

 そして、もし、しかるべき地位が与えられなくとも、決して心に苦しみをつくることなく、淡々として自己の器を磨き、理性を顕現させてゆくことが真のストイシズムであるといえる。

 皇帝の立場にあったマルクス=アウレリウスも、奴隷の立場にあったエピクテトスも、同じくストアの哲人として、叡智の結晶を後世に遺す立派な人生を幸福に送られたのである。

 どのような地位にあろうとも、哲人として生きることは可能なのである。

 

 (つづく)