理念哲学講義録  天川貴之

真善美聖の「理念哲学」の核心を、様々な哲学的テーマに基づいて、わかりやすく講義したものです。

第4章「存在と実在について」第5節(1)    天川貴之

 第5節 イデアの属性としての崇高なる感情について(1)

 

 さて、この真実在たるイデアの属性として、愛と夢と情熱などの崇高なる感情について洞察してみたいと思う。

 これらの感情もまた、真に実在性を帯びて認識し、実感できるためには、この世的欲望から自由にならなくてはならない。

 よく愛や夢や情熱を言葉に出したり、スローガンに揚げたりすると、まるで雲をつかむような抽象論であると批判する方がおられるが、その方の認識と実感は、やはりこの世的なる欲望に執われた見解であるといえるのである。

 まさしく、この世的なる欲望に執われていれば、地上的な現実のみが実在であり、天上的なイデア的なるものは夢幻の如く感じるからである。

 しかし、この世的な欲望に執われていては、決して真の意味で、正しい判断はできない。正しい判断とは、地上的なる欲望を離れた心境に立ち、イデア的なる観点から判断しなければならないものなのである。

 そして、イデア的なる観点に立てば、どれ程、愛や夢や情熱といったものが、人類社会にとって実体をもって、大切なものか分かってくるのである。

 愛や夢や情熱などが、いかに人間にとって大切な実在であるかということが、分かってくるのである。

 しかも、ありありとした実感として、心の底の底からかかる心情が湧き上がるようにして分かってくるものなのである。

 故に、物質的なるものに対して執われがなくなればなくなる程に、自然に、その方は愛の人となり、夢の人となり、情熱の人となるのである。

 決して、地上的なる執われがあっては、真に愛に生きることも、夢に生きることも、情熱に生きることもできないのである。

 無欲の大欲という言葉があるが、無欲であるからこそ、天上的な大欲である愛や夢や情熱に生きることができるのである。

 

 (つづく)