第4章「存在と実在について」第5節(2) 天川貴之
第5節 イデアの属性としての崇高なる感情について(2)
さらに、天上的な大欲に目覚めてきた時に、不思議と、今まで小欲の対象であると疎まれてきた物、金銭、名誉、地位、異性など、すべてのものの本質が観えてくるようになるのである。
それらは、実は、すべて絶対者から与えられたものであって、絶対者の御心のとおりに役立ててゆくべき大切なものであったことに、認識が到るのである。
私心がなくなり、無執着になればなる程、すべてのものの内に、イデアが、絶対者の御心が宿されていることを知ることができるのである。
故に、真にイデアに目覚めた方は、限りなくやさしく、すべてを慈しむようになるのである。なぜなら、すべてのものの内にイデアの生命が光輝いていることを実感するからである。
そうすると、すべてのものに対して限りなく感謝せざるをえない心境になってくる。なぜなら、すべてのものを通して、絶対者に生かされていることを自覚するからである。
イデアに真に目覚めた人は、すべてのものの内なるイデアを礼拝し、すべてのものに深く感謝しながら生きてゆくのである。
このように、すべてのものに対する限りない慈しみの心と感謝の心もまた、大切なイデアの属性であるということができるのである。
こうした天上的な大欲である愛や夢や情熱や慈しみや感謝の根源には、永遠不滅のイデアがある。真実在のイデアがある。
故に、愛や夢や情熱や慈しみや感謝などを通して、かかる天上的なる精神の属性を獲得してゆくことによって、真に魂は、永遠無限へと飛翔し、イデアたる真実在と一体となってゆくことができるのである。
かかるイデアと一体となってゆくことこそ、人間の究極の理想であり、人類の究極の理想である。かかるイデアは、心の内に万人が有しているのである。
くり返すが、プラトンは、イデアは彼岸の世界にあると述べられたが、彼岸の世界と心の世界は、実は一つなのである。故に、心の奥の奥に穿ち入った時に、確かにそこに、真実在のイデアの太陽を見い出すことができるのである。
(つづく)