理念哲学講義録  天川貴之

真善美聖の「理念哲学」の核心を、様々な哲学的テーマに基づいて、わかりやすく講義したものです。

第7章「知識と叡智について」(6)

 第6節  叡智の本質について

 

 第三に、叡智についてであるが、この段階においては、根源的なる思索によって把握している段階であり、概念の奥にある理念を真に認識している、知恵より高次な知であるといえよう。

 かかる知に到るためには、心の内なる理念を顕現することが必要であり、内なる理念の光が、外なる理念の光を照らし出しているといえるのである。

 この段階では、根源的なる理念がよく観えているので、思想として世に問うて、一時代精神となり、人類の知的遺産となる段階であるといえよう。

 有名な哲学者、思想家、学者の引用はほとんどなく、自分自身のオリジナルな思想のみが述べられている。

 そして、その表現は、神々しいまでの言魂と断固たる調子に溢れていて、その背後に、完全なる自己信頼が感じられるものであり、全体として、心の奥の奥なる部分に、深く深く響くものである。

 この知性の特徴は、人間の奥なる理念と世界の奥なる理念を深く洞察し、理念の観点から、人生や哲学や諸学問や国家など、すべてのものを鳥瞰できる点にある。

 そして、各々の哲学思想を一なる真理として把握でき、あらゆる思想の個性と高さを認識し、それらを統合できることにあるといえよう。

 もはや、自分自身と真理が一体となっている知であり、真理即自己、自己即真理の境地にあるといえよう。

 叡智の段階に到ると、全人類の意識の根底にある精神を自己の精神を同一視できるようになり、全人類への愛の気持ちが強くなってくる。

 そして、全人類の意識の根底にある根源的な真理そのものの体系的哲学が著作されることが多い。

 過去の偉人でいえば、例えば、ソクラテスプラトンプロティノス、カント、ヘーゲルエマソンなどの哲学は、叡智の結晶であるといえる。

 叡智の段階にまで到達している方は非常に希有であるが、確かに、どの時代にも「時代精神」として存在されていた。

 我々、哲学者、思想家、学者は、叡智の結晶を育むことを究極の理想、究極の目標としたい。

 

(つづく)