理念哲学講義録  天川貴之

真善美聖の「理念哲学」の核心を、様々な哲学的テーマに基づいて、わかりやすく講義したものです。

第8章「現象と理念美について」(2) 天川貴之

 第2節 カント哲学と叡智的直観について

 

 カントは、『判断力批判』の中で、この自然の奥なるものについて、「合目的性」という観点から解釈している。

 しかし、主観的構成論の認識的立場から、人間の認識に限界を認め、自然の合目的性や美というものは、客観的に存在しているということはいえず、あくまでも、合目的性や美というものがあるかのように判断力によって認識されるにすぎないとされている。

 しかし、先程、相互作用の認識論でも述べたように、美という理念の認識が可能なためには、人間の精神の内にも美(理念)が実在し、対象となる自然の内にも美(理念)が実在することが不可欠である。

 私は、かかる観点から、自然の奥には美(理念)が実在することを認めたいと思う。この根底にある所の認識論上の立場は、「叡智的直観」である。

 カントは、このような「叡智的直観」は、人間の能力には認められないとして限定をかけているが、人間の精神の内なる理念には、かかる高度な知的直観が存在するのであり、古今東西の理念(真善美聖)の把握のされ方をよくよく洞察してみれば、かかる高度な知的直観によるものが多いのである。

 人間にこのような認識力を認めなければ、人間の大いなる可能性に限定をかけた哲学体系となってしまうおそれがあると思う。

 

(つづく)