第8章「現象と理念美について」(5) 天川貴之
第4節 エマソン哲学と理念認識について(2)
そして、科学者は、一見、自然の現象を解明しているようにみえて、実はそうではないのである。
自然界の「法則」を発見するということは、現象の奥にある理念そのもの、絶対者そのものを認識することを本質としているのである。故に、そこに、科学の理念価値が生じてくるのである。
また、芸術家は、一見、自然の現象を映しているようにみえて、実はそうではないのである。
例えば、プラトニズムの立場からは、自然はイデアの影であるから、絵や詩などは、影の影を映し表現する行為であるから、理念価値が少ないように解釈されがちであるが、実はそうではないのである。
芸術家は、現象の奥に美という理念を見出し、それを表現しているのであるから、充分に理念価値があることなのである。
このように、自然の中に美を見出すということそのものが、実は、現象を認識するのではなく、その奥なる理念を認識することに本質があるということなのである。
美という観点に立つならば、現象は本来ないのである。理念のみが実在であり、理念の中のみに、美は住まうのである。
故に、自然の中に美がある以上、そこに何らかの理念を見出しているのであり、自然の奥なる美の一端を見出しているのである。
(つづく)
by 天川貴之