理念哲学講義録  天川貴之

真善美聖の「理念哲学」の核心を、様々な哲学的テーマに基づいて、わかりやすく講義したものです。

第2章「運命と自由意志について」【注解的続編】(1)   

  【注解的続編】(1)

 

①  本論文における哲学用語としての「超越的実在」は、宗教用語としては造物主(神)の概念にほぼ相当する。それは、大宇宙を統べる叡智であり、理性そのものであり、善そのものである存在である。

 

②  人間は、理性を有している点で超越的存在の分身であり、本性において超越的実在の属性を引き継ぐ存在である。宗教用語的には、人間は神から分かれてきた「神の子」であるという概念にほぼ相当する。

 

③  ショーペンハウアーは、超越者の「意志」ということを重んじられたが、本論文でいう超越的実在もまた、「意志」の主体でもある。しかしそれは、合理的、論理的である点で、ショーペンハウアーの「盲目的意志」とは対極にあるものである。

 

④  本論文の超越的実在とは、ヘーゲルの絶対者の概念と似ている点がある。何故なら、ヘーゲルの絶対者もまた、理性そのものであり、世界史を創ってゆくものであるからである。

 ヘーゲルによれば、世界史とは絶対者の自己展開であり、世界精神となって歴史を導くナポレオンなどの世界史的個人も、また諸個人も、各自が自主的に動いて歴史を創っているようにみえて、実は、その背後では、絶対者の「理性の術策」によって操られているのにすぎないとされているのである。

 これは、どちらかといえば、絶対的運命論に近い立場であるといえよう。

 

(つづく)