第5章「唯物学術と理念学術について」(1)
第1節 唯物論について
唯物学術と理念学術について述べてゆきたい。
唯物学術の根底には唯物論があり、理念学術の根底には観念論がある。
哲学史の伝統の中で、唯物論と観念論というものは、対立したものとして、各々の時代に思想潮流としてあった。
そこでまず、唯物論とは何かということについて述べてゆきたい。
唯物論とは、人間の本質、世界の本質を物質的に把握する考え方であるといえる。
すなわち、人間とは物質であり、世界とは物質であると考えるのである。
その結果として、精神的なるものは無視するか、重きを置かない考え方である。
歴史的には、古くは、世界の本質を、水とか空気とか火とかにみたタレスなどの自然哲学者がいたし、ヘレニズム期のエピクロスは、代表的な唯物論哲学を樹立している。
近代においては、ホッブス等の人間機械論を経て、また、現代にいたって、フォイエルバッハ、エンゲルス、マルクスなどの唯物論哲学が世界の一大潮流をなしているといえる。
さらに、科学的合理論も、精神の実体性を否定する唯物論が主流となっている。
このように、現代においては、唯物論が人々の常識になっており、人間の精神的実体が否定される風潮が出来上がっている。
(つづく)