理念哲学講義録  天川貴之

真善美聖の「理念哲学」の核心を、様々な哲学的テーマに基づいて、わかりやすく講義したものです。

第8章「現象と理念美について」(3) 天川貴之

 第3節 シェリング哲学と現象と理念について

 

 このように、人間の精神と自然の内に、理念(絶対者)を叡智的直観によって認識できるとした哲学者にシェリングがいる。

 シェリングの同一哲学は、人間と自然に同じ絶対者を見い出すことによって、人間と自然と絶対者の同一性を基礎づけ、特に、ロマン主義の芸術理念に大きな影響を与えている。

 しかし、シェリングの同一哲学も、美の哲学体系としては、根本的な欠陥がある。

 それは、ヘーゲルも指摘しているように、シェリングは、すべてのものを絶対者の顕われとして認識できるとすることによって、質の違いをなくしてしまう所があるからである。

 シェリングの同一哲学は、新スピノザ主義ともいわれるが、その点において、スピノザの汎神論もまた、同じ誤りを犯しているといえる。

 それを一言でいえば、現象と理念を区別していないということである。シェリングスピノザも、現象そのものを絶対者の顕われと認識してしまう所に誤りがあるのである。

 人間にしても自然にしても、その現象はあくまでも仮象であり、理念(美)ではない。現象の奥にこそ、真なる理念(美)があり、そこに、絶対者が実在するのである。

 故に、デカルトのいう自然の物質性というのは、自然の現象について述べてあるのであり、シェリングのいう自然の絶対性というのは、自然の理念について述べてあるのであり、この両者を統合することによって、真なる自然観というものができるのである。

 

(つづく)