第8章「現象と理念美について」(10) 天川貴之
第9節 一見「美」の形式を崩した芸術の美について(1)
以上、芸術の理念美について述べてきたが、芸術の中には、一見「美」の形式を崩したような美があるということについても探究しておきたい。
特に、現代芸術においてその傾向が多いが、その中には、一見美しくはないものの、高い芸術性が認められているものがある。例えば、ピカソのキュービズムの絵画や、マーラーの音楽などである。
その理由として、美を超えた「感動」をメッセージとして伝えたいという動機があり、それが形になったという考え方もあるであろう。
さらにいえば、「感動」の奥にあるものは、人生の本質、世界の本質についての深い洞察と表現ではないかと思う。
ピカソのキュービズムにしても、そのように表現することによってしか表せない人生の本質や世界の本質が、如実に表現されているといえる。
マーラーの音楽にしても、一見、不協和音とみえしものが、人生の暗い部分をよく表現しえているし、人生の闇の部分と光の部分を織りまぜたドラマ性を、如実に表現しているといえよう。
このように、人生の本質、世界の本質を如実に顕わすことが芸術たりうるといえるのである。
(つづく)
by 天川貴之