第8章「現象と理念美について」(14) 天川貴之
【注解的続編】(2)
④ 精神の内奥なる理念美の顕現とは、いわば芸術的悟りであるといえる。
故に、悟りに多様なる境地と段階的階梯があるように、芸術的悟りにも、多様なる境地と段階的階梯があるといえるのである。
⑤ こうした理念美の段階説は、プロティノスの哲学に近いものがあるといえよう。
まさしくプロティノスは、「一者」(絶対者)を頂点としながら、イデアに段階を設けたのである。
⑥ ハイデッガーの美学では、「真実」の顕現こそが芸術の本質であり、そのような作品化の結果として、その輝きが美となって顕れると考えられている。
これは、本論文において、人生の本質、世界の本質を顕わすことが芸術の本質であると述べた見解の内に含まれる考え方であろうと思う。
そして、本論文においては、本質もまた理念である、という立場から、広義の理念芸術の立場の中に、こうしたハイデッガー的な芸術観も包容せんとしているのである。
(おわり)
by 天川貴之